礼文島のすゝめ 桃岩展望台

2022年9月、北海道でのツーリングの際に、礼文・利尻の二つの島に立ち寄った。

 

旅に出かける人であれば誰しも、忘れられない旅先というのはあるだろう。私にとってはそれが礼文島である。季節と天候で場所の印象は大きく変わるだろうが、穏やかな天気と、淡く染まった夕暮れのおかげで、礼文島のコンディション自体がおそらく最高であったその日に、その場所を訪れることができた私は幸運であったと思う。もう一度行きたい場所ではあるが、あの日以上の時間を経験はできないのではないかとすら思う。

 

ツーリング

礼文・利尻とは、北海道稚内の沖に位置する小さな二つの島である。利尻島の方は、白い恋人のパッケージでも有名な利尻岳利尻昆布やウニでも有名だが、ここ礼文島の方は比較的立ち寄る人も少ないのではないだろうか。かくいう私も、礼文島がどんなところか、行くまでイメージを持っていなかった。

 

礼文島エキノコックスの流行が日本で最初に起こった地であり、島であるからこそ抑え込みに成功して、今ではエキノコックスに対して清浄を保っている。未知の病の発生地とされ、悲しい処置を超えて病を撲滅したという過去がある。このへんの歴史に関しては、私は不勉強であるが、「清浄島」河﨑秋子さんの小説があるので、読んでみたいと思っている。

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私が訪れたのは、9月、もう夜は寒いような時期である。稚内から船にバイクを載せて、礼文島にわたった。島に着いたのは、確か午後だった。セイコーマートで買い出しを済ませ、テントを設営し、もう数時間で日が暮れるような時間だったが、夕食の前に少し景色を見に行こうと思ったのだ。桃岩展望台に、あの日にあの時間に行ったのは本当に偶然だったと思う。

 

桃岩展望台の下の駐車場から歩く。高山植物の宝庫で、初夏は特にシーズンなようだ。

高山植物の季節にも来てみたい

 

駐車場からは利尻岳が海の向こうに見える。木道を歩き、階段をのぼり、岬の先端を目指す。

利尻岳が美しい

日がかたむいてゆく

午後もおそい時間。光は色を柔らかく変え、秋のすこし枯れかかった草木を黄金色に照らす。岬の先端は結構遠い。

光が周囲をつつむ、岬の先端へ

こんな道を、涼しい風に吹かれて、静かな中を岬の先端をめざして歩く。他に人は、写真をとるおじさんが一人。

 

猫の形の岩、猫岩

 

日が沈んでいった。

日が水平線の向こうへ

 

柔らかい光に照らされて、ここはなんて美しい場所なんだろうと思った。



完全に日が沈み、光はどんどん色を変え、紫に染まった。海の向こうに見える利尻も紫に染まった。

 

紫色が利尻をつつんでいる。

 

この時間は一瞬で、眺めるうちに揺らぐように色が濃くなって、いつの間にか星が見えていた。一瞬の紫色が過ぎ去ると、手元は暗くなり、帰らなければと思う。名残しいけれど、町に戻らなければ。寒くなるし、足元も危うい。

 

この日の食事は、礼文島で、炭火のちゃんちゃん焼きのお店に行った。これもまた素晴らしく、ふっくら脂ののったほっけに、甘辛いネギ味噌をのせて、ちょっぴり焦がしながら白米と一緒にいただいた。風に吹かれて冷えた体に染み渡るおいしさ。景色にしみじみとしたあと、こんなに美味しい土地のものをいただけるなんて、幸せでした。

ほっけのちゃんちゃん焼き


この日のことは、夢だったのではないかと今でも思ってしまう